複数食物アレルギーを有するお子さんの指導方法〜実践編〜

食物アレルギー

先日、複数食材のアレルギーを持つお子さんに対する、栄養食事指導についてを書かせて頂きました。

複数食物アレルギーを有するお子さんの指導方法

今回は実際に、どのように診療を行なっているのかに関して、仮想の患者さんの病歴(実際の患者さんの病歴は倫理的に使用できませんので)を想定し、解説していきたいと思います。

  • 症例)
  • 2歳、女児
  • 現病歴)
  • 40週0日、自然分娩にて出生、完全母乳栄養。
  • 生後1ヶ月頃:顔に湿疹を認め、近医受診後ロコイド(4群ステロイド軟膏)の塗布を開始。
  • 4ヶ月頃:徐々に顔の乳児湿疹が改善し、ロコイド塗布を終えた。
  • 6ヶ月頃:兄弟が鶏卵アレルギーの為、離乳食開始前に近医でアレルギー検査を施行。

以下、単位省略

総IgE:300

卵白:25(クラス4)、オボムコイド:10(クラス3)、牛乳:3(クラス2)、小麦:10(クラス3)、大豆:0.5(クラス1)

  • 鶏卵・牛乳・小麦は除去、大豆(豆腐)は自宅で摂取開始するように指導された。

  • 1歳:特に誤食する事無く経過、半年ぶりに採血を施行した。

総IgE:300

卵白:20(クラス4)、オボムコイド:5(クラス3)、牛乳:10(クラス3)、カゼイン:3(クラス2)、小麦:10(クラス3)、ω-5グリアジン:3(クラス2)、大豆:3(クラス2)

  • 鶏卵・牛乳・小麦は除去継続、大豆(豆腐)は十分量摂取可能であり除去解除となった。

  • 1歳半:保育園繋がりの親御さんの友人から、負荷試験の話を聞き当院希望受診した。
  • 受診時、鶏卵・牛乳・小麦は未摂取で完全除去している状態。
  • 診察上、軽度皮膚が乾燥気味であったが、明らかな湿疹を認めなかった。
  • 最後の採血から、半年経過しており当院でも採血を施行した。

総IgE:450

卵白:30(クラス4)、オボムコイド:10(クラス3)、牛乳:70(クラス5)、カゼイン:70(クラス5)、小麦:20(クラス4)、ω-5グリアジン:1(クラス2)、ピーナッツ:20(クラス4)

この時点での私の頭の中では

鶏卵:卵白、オボムコイド共に上昇している。ゆで卵白負荷試験は難しいけど、栄養や卵黄に付着するごく微量の卵白成分に期待して、ゆで卵黄負荷試験を進めよう

牛乳:抗体価がめちゃくちゃ上昇している。すぐに手をつけれる状況ではなさそう。乳糖の摂取歴がなければ、乳糖負荷試験も検討しよう。

小麦:小麦の抗体価は上昇しているけど、ω-5グリアジンは低下している。少量のうどんの負荷試験を進めよう。

ピーナッツ:抗体価高めだけど、現時点で栄養面に関する心配はない。次回Ara h 2も計ってみよう。それまでは除去と指導しよう。

前回の記事を参考にすると

①耐性獲得しやすい食材を積極的に進める➡️①小麦②卵黄

②成長に必要な栄養素を考慮する➡️炭水化物は米、芋で代用可タンパク質は肉・魚の摂取は可能だけど、卵黄も食べていけるようにしたい。牛乳アレルギーで不足するカルシウムを豆腐や小松菜などを積極的に食事に利用してもらうように指導する

③同時に進める食材は二つ程度にする➡️小麦、鶏卵から進める

④耐性獲得しにくい食材は完全除去にしないように努める➡️牛乳は小麦・鶏卵に介入した後で、採血結果に関わらず一度重症度に関する評価を行う

⑤出来るだけアレルゲンを嫌いにさせない➡️先ずは、どの程度摂取できるか評価する。

と考えて今す。

  • 更に、負荷試験を進めた場合(以下、進めた負荷試験順)
  • 小麦:少量を総負荷量に設定したうどん負荷試験陰性➡️うどん2g自宅で摂取開始。
  • 鶏卵:ゆで卵黄1個を3分割にて施行した負荷試験陰性➡️最終負荷量のゆで卵黄1/2個を自宅で摂取開始。その後、微量のゆで卵白負荷試験陰性➡️ゆで卵白0.2g自宅で摂取開始。
  • 牛乳:粉薬に含まれる乳糖も摂取していたか不明の為、乳糖負荷試験施行し陰性➡️乳糖は除去解除

  • 2歳:前回の採血から半年経過していたので久しぶりに採血施行。

総IgE:450

卵白:35(クラス4)、オボムコイド:10(クラス3)、牛乳:75(クラス5)、カゼイン:75(クラス5)、小麦:30(クラス4)、ω-5グリアジン:3(クラス2)、ピーナッツ:15(クラス3)、Ara h 2:15

以下、それまでの負荷試験と採血結果を踏まえての私の考えは

鶏卵:ゆで卵白0.2gを継続。卵黄も好きで食べてくれそうなので、週に1-2回は摂取継続

牛乳:少量の牛乳負荷試験を予定。負荷試験の際は口周囲に付着しないように頬にプロペトを塗布して行う。

小麦:採血結果を待っている間に、本人がうどんをもっと欲しがった為、実家に預けている時に祖父がうどん2本与えたら、全身蕁麻疹と咳、喘鳴を認めて、近医受診した自宅でうどん2g継続。(祖父母に自宅増量について注意喚起、両親を通してお伝えしてもらう)。

ピーナッツ:除去継続

といった感じで、採血結果・負荷試験結果・自宅での誤食の病歴を評価して、除去解除を目指して栄養食事指導を進めます。

最後、今後の展望としては

鶏卵:抗体価が低下してきたら、増量を目的とした少量のゆで卵白負荷を計画。

牛乳:少量の負荷試験結果を見て、次の一手を検討。

小麦:採血結果を見て、一年後に増量目的に負荷試験を検討。

ピーナッツ:3歳過ぎてエピペン処方できる体重に近づいたら、閾値確認目的に負荷試験を検討する。

この架空の症例では、鶏卵・小麦は時間をかければ耐性獲得に至る可能性は十分にあるかと思います。

一方、牛乳は完全除去or小麦が進んだら牛乳入りのパンor牛乳を微量に摂取のいずれかを負荷試験結果を見て検討します。

ピーナッツはAra h 2の数値から、負荷試験を行わずともピーナッツアレルギーと診断可能です。

ただし、アナフィラキシーのような強い症状を認めるかを今後、負荷試験で評価する必要があります

少々長くなりましたが、以上仮想の複数食材のアレルギーがあるお子さんに対する当院の栄養食事指導の進め方に関する解説でした。

参考になれば幸いです。

また、次の記事にてお会いしましょう。

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