今日は小麦アレルギーに関する話題から。
Development of a prediction model for wheat allergy
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/pai.12806
うどん負荷試験における予測方法の解説です。
尚、重症度の基準として負荷試験の結果、うどん2gを摂取できない程の重症度=重症、うどん2g orそれ以上摂取可能=非重症(軽症)と定義しています。
では、例によって結論から述べたいと思います。
予測に重要な要素は
- 小麦特異的IgE抗体価
- ω-5グリアジン特異的IgE抗体価
- 総IgE価
- 小麦によるアナフィラキシーの既往
の4つになります。
では、それぞれどのようなポイントが重要になるのか解説します。
・小麦特異的IgE抗体価
この項目では小麦特異的IgE抗体値が高いほど、重症である事が予測できます。
ただし、その判定方法は小麦特異的IgE抗体値のクラスによって分けられています。
このクラス分類というものは、アレルギーの採血結果としてもらえる紙にそれぞれ具体的な数値の横に(2)や(6)として表記されている事があります。
この数値は0から6までの7段階に分けられており、具体的には以下のような数値で分けています。
クラス:数値(UA/ml)
0:0.35未満
1:0.35〜0.7未満
2:0.7〜3.5未満
3:3.5〜17.5未満
4:17.5〜50.0未満
5:50.0〜100.0未満
6:100以上
このクラス分けの数値をうどん負荷試験の予測にあたり、そのまま点数として用います。
例えば、クラス2なら2点、クラス6なら6点といった感じです。
・ω-5グリアジン特異的IgE価
この項目は、陽性か陰性かのどちらかで評価します。
陽性であれば、1点。陰性であれば0点です。
先ほどの小麦特異的IgE抗体価のようにクラスで評価しないの?と質問が出そうです。
これは、統計的な問題により陽性か陰性かの2択となっています。
その為、あまり深く考えなくてもOKです。
・総IgE抗体価(非特異的IgE抗体価)
この項目は最近注目されている評価項目の一つです。
以前牛乳アレルギー児における負荷試験の重症度予測の記事でも同様に重要視されていました。
数値的な評価方法は1000未満である事を1点としてカウントします。
採血結果の紙には非特異的IgEと記載されており、何を評価しているのか分からないと思われる事が多いかもしれません。
その為、評価されない先生もいらっしゃいますが、実は重要な意味を持っている可能性があり、私は毎回評価しています。
・小麦によるアナフィラキシーの既往
こちらについては過去にアナフィラキシーを起こした事がある場合は、2点加算します。
なぜか?と聞かれても、統計学的に影響が大きいからというなんとも言えない答えになってしまいますが、逆に言えば他の項目と比較して臨床的に大きな意味があるとも言えます。
これらの4項目の合計10点満点中何点になったかで、うどん負荷試験結果を予測します。
この論文で結論付けられていたのは、
8〜10点:重症
0〜4点:非重症(軽症)
が予測されるというものでした。
例えば、重症が予測される8点はどのような患者さんかと言うと
小麦特異的IgE抗体値:40.0(クラス4:4点)
ω-5グリアジン特異的IgE抗体値:3.0(陽性:1点)
総IgE値:500(1000未満:1点)
アナフィラキシーの既往:あり(2点)
条件を具体的に並べてみると、確かに重症そうです。
一方で、非重症(軽症)が予測される4点がどのような患者さんかと言うと
小麦特異的IgE抗体値:10.0(クラス3:3点)
ω-5グリアジン特異的IgE抗体値:0.34(陰性:0点)
総IgE値:500(1000未満:1点)
アナフィラキシーの既往:なし(0点)
確かに、これくらい重症度だと少しづつうどんを食べれそうな印象です。
最後に注意点として、それぞれの陽性的中率と陰性的中率に触れたいと思います。
重症予測スコアが8〜10点の場合、実際に重症の可能性は93%と高いのですが、0-4点の場合実際に非重症(軽症)の可能性は68%と必ずしも高くない結果でした。
その為、「重症」である事の予測には有用かもしれませんが、「非重症(軽症)」であるかへの応用には注意が必要です。
一方で、重症予測スコアが0〜4点でない場合に重症である可能性は87%とそれなりに高い結果でした。
この結果を私なりに応用し、予測スコアで分けるならば
重症が強く予想される8〜10点の場合:拠点病院など免疫療法が可能な病院へ紹介
重症の可能性が否定できない5〜7点の場合:日常的に負荷試験を行なっている病院へ紹介
非重症の可能性がある0〜4点の場合:クリニックや外来での負荷試験を検討
と考えます。
もしくは、自分の施設で考えると
重症が強く予想される8〜10点の場合:素麺負荷試験(学会的に推奨はされていない)
重症の可能性が否定できない5〜7点の場合:少量のうどん負荷試験
非重症の可能性がある0〜4点の場合:少量もしくは中等量のうどん負荷試験
と場合分けします。
非重症の場合で2パターンあるのは、小麦製品に対して完全除去や未摂取の状態であれば、少量のうどん負荷試験を検討し、少量の小麦製品の摂取を定期的に行なっている場合は中等量の負荷試験を検討する為です。
最後に記した私なりの考察が正解かどうかは示せていませんが、少なくとも論文で示された4つの要因が小麦アレルギーの重症度に関連している事は臨床的な感覚と矛盾しません。
専門医がどのように考えて負荷試験を検討しているか、この記事で少しでもお伝えできれば幸いです。
では、また次の記事にてお会いしましょう。
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