先日エピペン処方における条件(適応)に関するブログを紹介させて頂きました。
その一節に「アナフィラキシーを起こし、苦しんでいる我が子に救命目的にエピペン®︎を接種する(針を刺す)という事は並大抵の「覚悟」なしでは出来ない行為です。」と記しました。
医療者ではない患者さんのご両親やご家族にとって、エピペンの使用は我が子や家族に針を刺すというかなり高いハードルがある医療行為です。
その為、私達はエピペンをリスクのある患者さんに初めて処方する際や、再処方する度にエピペン指導を繰り返し行います。
エピペンはシンプルな作りになっているので、正直に言ってその使用方法は一度聞くだけで理解し、難なく使えるようになる親御さんやご家族がほとんどです。
では、何故何度も何度も同じ内容であるエピペンの指導を行うかと言うと、「いざという時」に備えて頂く為です。
正直な事を言うと、医師であってもアナフィラキシーなどの緊急を要する患者さんを目の当たりする時、冷静ではいられません。
自分自身緊張している事を自覚できるので、複雑な事が考えられなかったり薬の量や手技を思い出そうとしても普段通りに思考する事が出来ません。
その為、私の場合は重症の患者さんを診察する時は無意識のうちにスイッチを切り替え対応しています。
どのような方向にスイッチを切り替えているかと言うと、思考回路をシンプルにして基本的に「何も考えない」ようにしています。
その為、唯一出来る事は体や頭に沁みついた事柄を反射的に行うだけです。
「医療者だからそのように出来るだけで、非医療者には無理だ!」というご意見もあるかもしれませんが、果たして本当にそうでしょうか?
ブログをご覧の皆様の中には、学生の頃部活や習い事の発表会を経験された事がある方もいらっしゃるかと思います。
発表会という「非日常」で唯一役に立ったのは、日頃から無意識でも反射的に出来るようになった事だったのではないでしょうか?
この「非日常」はアナフィラキシーの場合も同じです。
意識的にトレーナーを用いて練習を繰り返す事で、「いざという時」に頭の中が真っ白になった状態でも正確にエピペンを使用できたりする効果が期待されます。
是非とも定期的なエピペン指導を受ける事をオススメいたします。
また、ご両親やご家族がエピペンを接種する際に最も気になる事は何だろうと考えた時、エピペン接種時(針を刺す)の痛みではないかという点でした。
なお、私の過去に経験した負荷試験などでのエピペン接種の個人的な見解としては、接種の痛みが極端に強い為トラウマになったお子さんは拝見した事はありません。
もちろん、アナフィラキシーを起こして、原因となったアレルゲンを強く拒否する患者さんはいらっしゃいます。
ですが、その訴えの中心は「アナフィラキシーが辛かった」というものであり、必ずしもエピペン使用に対してではありません。
というのも、エピペンを使用するほどの強いアレルギー反応を示している場合(例えば強い呼吸苦や嘔気・嘔吐、全身に蕁麻疹が出ているなど)、最も強く意識するのはそれらの不快なアレルギー症状だからだと考えられます。
その際の症状を感じ方について実際に話を聞いてみた事があります。
アナフィラキシー の症状の感じ方を「10」とすると、エピペン接種による注射の痛みは「1~2」程度と教えてくれたました。
エピペンの注射による痛みはあったけど、それ以外の症状がきつくて注射の痛みは気になる程ではなかったとの事でした。
もちろん個人差があるかと思いますので一概には言えませんが、必ずしも「エピペン接種=強い痛みを伴う」というわけではない可能性もありそうです。
実際にエピペンを接種された体験をブログに示していらっしゃる小麦アレルギーのnacoさんの記事をご紹介します。
この記事によるとnacoさんは「痛みは感じなかった」との事です。
その理由として、緊張していた為に痛みを感じなかったからかもと推察されていらっしゃいます。
実際に負荷試験の時にアナフィラキシーを起こしボスミンを筋肉注射する場合でも、注射するまでは「ワーワー」嫌がっている子も、注射後に筋肉注射した足をあまり気にする様子もなく、それまで辛かった症状から解放されて楽そうにする姿を何度も目にしました。
その為、この記事でお伝えしたい事の一つは「エピペン接種は注射で痛みを伴う可能性はあるが、接種しても痛みは案外気にならないかもしれない」という事です。
最後にお伝えしたい事として、エピペンは適切に扱えない事で、接種される患者さんへ怪我(裂創)を負わせてしまう可能性がある為、その取り扱いにはやはり注意が必要です。
(論文中の裂傷の写真を掲載しようかと思いましたが、インパクトのあり過ぎるので控えました)
この裂傷はエピペン接種し針が体内に入ったままで、急に注射部位の足を大きく動かしてしまった為に発生したものになります。
つまり、接種される患者さんの固定(押さえ)が不十分であった為に発生した事故になります。
エピペンの接種にはただ薬剤を投与するだけなのではなく、適切な手技の下で投与される必要があります。
エピペンは正しく使えばアナフィラキシーに対する一番の治療薬ですが、正しく扱うには何度も何度も練習し、いざという時に「私(時に本人だったり、ご家族)」が打つのだ!という気持ちを育てていく必要があります。
その「いざという時」は来ないに越した事はありませんが、それを見越して主治医の先生はエピペンを処方されているはずです。
エピペンは年に一度更新するはずですので、アレルギー外来で積極的に指導を受けるように心掛けてください。
以上参考になれば幸いです。
また次の記事でお会いしましょう。
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