ここ数日、第58回小児アレルギー学会学術大会のオンデマンド放送を見て勉強していますが、興味深い話題がとても多く、時間がかかってしまいました。
今回は特に興味深かった免疫療法について解説したいと思います。
何かと話題になる食物アレルギーの免疫療法ですが、この治療の解説を行う前に一点だけ注意喚起です。
食物アレルギー診療における経口免疫療法は、高い安全性と確実に効果が得られるような一般的な治療方法ではなく、専門医のもとで研究的に行われる治療方法である事を表記しておきます。
また、経口免疫療法の定義として、「自然経過では早期に耐性獲得が期待できない症例に対して、事前の食物経口負荷試験で症状誘発閾値を確認した後に下忍食物を医師の指導のもとで継続的に経口摂取させ、脱感作状態や持続的無反応の状態とした上で、究極的には耐性獲得を目指す治療」と食物アレルギー診療ガイドライン2021に明記されています。
尚、言葉の定義として
脱感作:原因食物の継続的な摂取により反応閾値が上昇し、一定の量を症状なく摂取可能な状態➡️一定期間摂取がないと、閾値が低下する可能性がある
持続的無反応:一定期間摂取を中止した後に再開しても、症状の誘発がない状態
➡️運動や疲労などの要因が加わると症状が誘発される可能性がある
耐性獲得:原因食物に対する症状の誘発が完全にない状態
前置きが長くなりましたが、いつもの結論から述べたいと思います。
経皮免疫療法➡️安全性:高め、効果:低め、治療を受けれる可能性:低い
舌下免疫療法➡️安全性:高め、効果:低め、治療を受けれる可能性:高め
経口免疫療法➡️安全性:低め、効果:高め、治療を受けれる可能性:高め
オマリズマブ併用経口免疫療法➡️安全性:高め、効果:高め、治療を受けれる可能性:低い
※上記の高めや低めといった評価は、他の免疫療法と比較してという意味です。一般的な治療と比較している訳ではありませんのでご注意ください。
続いて、各治療法に関する解説です。
・経皮免疫療法
食物アレルギーに対する安全性が叫ばれる昨今、特に免疫療法を導入する患者さんではアナフィラキシーなどの強い誘発症状を認める事が少なくありません。
そんな中、アレルゲンを口から摂取する事なく、治療できる可能性があるのが経皮免疫療法です。
方法は、アレルゲンを浸したパッチ(シールみたいなもの)を健常な皮膚に貼っておくだけです。
勿論免疫療法である以上、アナフィラキシーが起こる可能性は0(ゼロ)ではありませんが、直接体内に入れていない事もあり、安全性に関しては他の免疫療法と比較して(高いと断定ませんが)高めだと考えられています。
一方、効果については十分量のアレルゲン摂取に至らない事も多く、他の免疫療法と比較して低めと評価されています。
先日の学会上での発表では、牛乳アレルギーで症状誘発閾値が1ml以下だった患者さんが100ml近く摂取可能になる症例もいれば、閾値がほとんど変化しない症例や、逆に低下していた症例も存在しており、症例によって効果のバラツキが多い印象でした。
ただ、直接アレルゲンを摂取しなくても良い点や、安全性が他の免疫療法と比較して高い点などを考慮すると、個人的な見解として重症(閾値が低く)過ぎて経口免疫療法すら導入できない患者さんへの1st stepとしての免疫療法としては有用であると感じました。
一つ注意点として、この免疫療法を研究している施設でしか導入できませんので、これからさらに研究が進み、専門医が行える一般的な免疫療法とならない限り、普及する可能性は低いと考えられます。
・舌下免疫療法
アレルギー性鼻炎における、ミティキュアやシダキュアで有名な舌下免疫療法ですが、食物アレルギー診療でも用いる事が可能です。
その方法は、舌下にアレルゲンを含んだ後、数分保持します。
その後アレルゲンを飲み込む場合を嚥下法と言い、口から出す場合を吐瀉法と言い、舌下免疫療法の中でも更に2つに分類されます。
特に嚥下法の場合は後述する経口免疫療法的な側面もあり、正確にはこれら二つの方法を一緒の治療法とするのは難しいかもしれません。
その為、今回の舌下免疫療法に関する解説では吐瀉法(舌下にアレルゲンを含んで数分保持した後、口から出す方法)に関して行いたいと思います。
先日の学会で紹介されていたのは、ゆで卵白0.1gでアナフィラキシーを呈する程重症の患者さんに対して、キューピーの卵白パウダーを希釈して行った舌下免疫療法(吐瀉法)を導入した症例でした。
その症例では、治療の際に若干の咽頭掻痒感を認めたものの、半年間程舌下免疫療法を施行し、その後ゆで卵白1g程度の経口免疫療法へ移行が可能となっておりました。
効果の面では舌下免疫療法単独で日常的なアレルゲン摂取量まで増量する事は難しい可能性がありますが、先ほどの経皮免疫療法と同様に特に閾値が低い重症の食物アレルギー患者さんへ経口免疫療法を導入する前の導入目的に舌下免疫療法を行う事は可能かもしれません。
一方、経皮免疫療法とは異なり経験豊富なアレルギー専門医が常駐し、経口免疫療法を実施している施設では導入可能な可能性があり、治療を行える可能性は高めと判断しています。
・経口免疫療法
上述した2つの免疫療法と異なり、実際に摂取する免疫療法になります。短期間で一気に増量する急速法と数年かけて徐々に増量する緩徐法とがありましたが、数年前に牛乳の免疫療法中のお子さんの重大な事故を認め、現在全国で行われてはいない(はずです)。
特に急速方は短期間で日常摂取量まで増量できる可能性がある一方で、多くの症例で軽い症状からアナフィラキシー、もしくはアナフィラキシーショックまで呈する可能性があり、以前から安全性に関する議論が絶えませんでした。
その為、近年日常摂取量を目標とするのではなく、より安全に施行する為に少量を目標とした経口免疫療法に関する研究の報告が増えています。
また、少量を目標として経口免疫療法免疫療法を開始・到達した後、日常摂取量を目標に設定し直す事で、最終的に耐性獲得を目指す事もできる可能性があり、効果は高めだと考えています。
更に、以前から研究として免疫療法に力を入れている施設は少なくない為、治療を受けれる可能性も高めになるかと思います。
まだまだ、検討の余地がある治療方法に違いはありませんが、自然に耐性獲得が得られない場合の最後の治療である事は否定できません。
・オマリズマブ併用免疫療法
オマリズマブは重症喘息に対して用いられる抗IgE抗体という生物学的製剤の一種です。
抗IgE抗体は、食物アレルギーでも症状誘発に関係するIgEに結合する事で、IgEが上手く働かなくなるよう(ブロック)します。
その為、オマリズマブ併用下での経口免疫療法中はアレルギー誘発症状を劇的に抑えられる可能性があります。
オマリズマブ併用での免疫療法の効果は、経口免疫療法単独と変わらないとする報告から、併用して治療した方がより多い量を摂取できたとする報告まで多彩です。
また、併用中はアレルギー症状が誘発されるのを抑える事ができても、併用終了後の経口免疫療法中にアナフィラキシー反応が出現したりする症例もあり、まだまだ臨床研究の域を出ない治療の一つだと思います。
更に、オマリズマブを使用できる症例は臨床研究(治験)に参加するか、重症の気管支喘息(本来なら免疫療法は参加できない)症例である為、基本的に治療を受けれる可能性は低いと考えられます。
以上、先月の小児アレルギー学会の報告を参考に免疫療法の解説を行いました。
免疫療法はまだ発展途上にある治療方法の為、導入には慎重であるべきかと思いますが、同時に将来性も大きい治療だと思います。
今後、興味深い論文や総説が出た際に、こちらで紹介させて頂ければ幸いです。
では、また次の記事にて
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