経口免疫療法と栄養食事指導の違いについて

食物アレルギー

最近ツイッターにて、経口免疫療法と栄養食事指導の違いはなんだろう?とのツイートを拝見し、私なりの解釈をまとめてみました。

対象という観点から説明すると、自然経過で早期に耐性獲得期待できない症例は経口免疫療法の対象になり、アレルゲンに感作されているだけの症例や、一定量のアレルゲン摂取可能な症例は栄養食事指導の対象となります。

アレルゲン摂取の観点から説明すると、閾値(過去に症状を認めた量)を超えてアレルゲンを摂取するのが経口免疫療法とされ、負荷試験や病歴から摂取可能なアレルゲン量を確認し、そのアレルゲンを超えない範囲で摂取可能な料理や食品(加工品など)を具体的に提示する場合は栄養食事指導とされています。

食物アレルギーガイドライン2021では経口免疫療法の定義について、「自然経過では早期に耐性獲得が期待できない症例に対して、事前の経口負荷試験で症状誘発閾値を確認した後に原因食物を医師の指導のもとで継続的に経口摂取させ、脱感作状態や持続的無反応の状態とした上で、究極的には耐性獲得を目指す治療」と記載されています。

同ガイドライン2016の時代には、自宅で増量する治療法は全て免疫療法ではないかとの指摘が学会でも散見されました。

ですが、自宅で増量する栄養食事指導法に関して、愛知県を中心とした東海地区の先生方が以前から報告していました。(鶏卵経口負荷試験陽性者に対する除去解除を目指した食事指導(第2報))

最近では、軽症の鶏卵アレルギーが予測される症例に関して、負荷試験で増量する群(栄養食事指導寄り)と自宅で増量する群(経口免疫療法寄り)に分けて比較する研究を行なっていたようです。

(Efficacy, safety, and parental anxiety in a randomized trial of two dietary instruction methods for children with suspected hen’s egg allergy)

(ほむほむ先生の記事より)

結果は負荷試験で増量する群の方が、より早く鶏卵1/2個まで増量できていましたが、最終的に自宅で増量群も鶏卵1/2個に十分到達していたようです。

このあたりの論文が影響したのか、ガイドライン2021からは増量方法というよりも、対象者が早期に耐性獲得できるかどうかの方が重要視されているようです。

一方、ガイドラインに記載してある経口免疫療法の対象者「自然経過では早期に耐性獲得が期待できない症例」とされていますが、明確な実例は存在しません。

私も改めて目を通していて、「??」と疑問符が浮かんできました。

ガイドライン2016までは経口免疫療法の対象者の適応に強いアレルギー症状が高年齢(およそ5歳以上)まで遷延した患者耐性獲得しにくい食物アレルギー(ピーナッツなど)を持つ患者として、ある程度方向付けがなされていました。

一方、ガイドライン2021では経口免疫療法の対象として年齢の記載が無くなり、単純に自然経過では早期に耐性獲得が期待できない症例とだけ記載されています。

確かにアレルゲンによって耐性獲得率はまちまちだし、耐性獲得しにくいリスク因子も異なりますが、読んでる側からすると結局どんな人が対象になるのか理解しにくいです。

実例として鶏卵を例に挙げてみましょう。

ガイドライン2021では耐性獲得しにくいリスク因子として特異的IgE抗体価、皮膚プリックテストの膨疹径、誘発症状の既往が全身症状である事、アナフィラキシー歴、少量の鶏卵に反応する事、男性、アトピー性皮膚炎の重症度が高い事、特異的IgG4抗体価が高い事などです。

うーん、分かったような分からないような。。。

一応ガイドライン2021には卵白特異的IgE抗体価のピークが高いほど耐性化率が低いとの記載がありますが、いつのピークがどれくらい高ければ悪いのかが分からず、イメージしにくいです。

一方、最近沖縄県の病院から出された鶏卵の自然歴に関する論文(対象者は栄養食事指導のみ)では、1歳の時の卵白特異的IgE抗体価高値鶏卵完全除去が6歳の時まで鶏卵アレルギーが遷延するのに最も重要なリスク因子であると報告されていました。

遷延する鶏卵アレルギーに関する後ろ向きコホート研究

(日本小児アレルギー学会のツイッターより)

そして、抗体値が高い(卵白class4以上)症例で、1歳時に鶏卵完全除去だと6歳までの遷延率74%1歳から鶏卵摂取をしている遷延率12%、と幼い時の鶏卵除去の有無で鶏卵アレルギーが遷延するかどうかが大きく異なっていました。

つまり、抗体価が高くても1歳頃から少量ずつ鶏卵を摂取できる(栄養食事指導に乗れる)程度の患者さんは、耐性獲得する可能性があると考えられます。

以上のことから個人的見解をまとめると、

特異的IgE抗体価が高く閾値も低い為、一般的な栄養食事指導に乗れない患者さんに対して、アレルゲンを微量から進める(増量方法は問わない)場合経口免疫療法と考えられるのではないでしょうか。

尚、一般的な栄養食事指導総負荷量が少量である(鶏卵なら加熱卵白1~1.5g程度)負荷試験の結果が陰性である場合に、総負荷量を超えない範囲でのアレルゲン摂取を指導します

(総負荷量のまとめ:食物アレルギーのゴール〜目指すべきアレルゲンの量は?〜)

言い換えると、総負荷量が少量である負荷試験結果が陽性の場合でも、ごく微量のアレルゲン摂取を進める場合は経口免疫療法と言えるのだと思われます。

そして、最後に一つだけ。

総負荷量が少量である負荷試験結果が陽性の場合で、更にごく微量(0.1gや0.2g程度)の鶏卵摂取が負荷試験などで摂取可能である場合は、経口免疫療法とするのか栄養食事指導とするのか現在の食物アレルギー診療ではグレーゾーンとなり得ます。

おそらく数年の間に学会などで報告があるかと思いますので、楽しみにしたいと思っています。

それではまた次の記事にてお会いしましょう。

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