鶏卵・牛乳・小麦食物アレルギーを持つお子さんで、アレルギーの卒業(耐性獲得)に向けて自宅でアレルゲン摂取を行う子は少なくないと思います。
1-2歳のうちは何も気にせずにアレルゲンを摂取してくれる事も多いですが、3歳を過ぎてくると自己主張が出てきたりします。
また、小学生までアレルギーが遷延している子はアレルゲン摂取をより嫌がるようになります。
これは小学生に至るまでの経過で、アレルゲンに対する成功体験が少ない(負荷試験や誤食でマイナスなイメージを持つ経験を積んできた)事が影響している場合が多いです。
例えば、嫌いなアレルゲンがイクラのような摂取頻度も少なく、除去が容易な食材ならば苦労も少ないかもしれません。
一方、鶏卵のように摂取頻度が多く、どこにでも使用されている食材の場合はずっと避け続ける事は強い困難が伴います。
学校の給食で誤食する事もあれば、成長するにつれて増える買い食いで誤食するかもしれません。
幼いうちは目の届く範囲でしか食事をする事がありませんでしたが、成長と共にどんどん活動範囲が増える為、近くで見守り続ける事が難しくなります。
特にアナフィラキシーを起こすような重症なお子さんでは、誤食時に重症の症状が誘発されるのを避ける為に免疫療法を導入するお子さんもいるかもしれません。
ですが、嫌いなアレルゲンを食べる時、子どもはマイナスイメージ(陰性感情)を抱いたまま、アレルゲンを摂取する事になります。
極端な話、「食べたくないけど食べろと言われたので食べる」というような、どこか自分の意思とは関係ない力が働きイヤイヤ従っているという状態です。
これは動きたくない「自分」が、「他人(自分以外の人の意味)」に自分の意思に反して動かされているという受動的な状態です。
途中で症状が出たりして躓くと、まるで他人(多くはご両親)に原因があるかのように非難し始めたり、アレルゲンに対する陰性感情が益々強くなったりします。
では、どうすれば良いのか?
その方法の一つとして私が患者さん自身に伝えている事は、「自分で決める」事です。
子どもにそんな事言ったら、アレルゲンなんて食べるわけないじゃないか⁈と非難の声が降ってきそうですが、実際にアレルゲンとしっかり向き合える子はちゃんといます。
もちろん、年齢によって対応を変える必要があります。
- 小学校低学年のまで:両親が主導権を握りアレルゲンと向き合う事も良いでしょう。
ですが、アレルゲンを摂取する意味や意義を低年齢のお子さんにもわかる範囲で主治医や親からしっかりかつ定期的に伝える事が望ましいです。
2. 小学校高学年まで食物アレルギーが遷延している場合:食物アレルギーについてどう考えているのか、これからどうなりたいのか、このまま大人まで遷延したらどんな未来が待っているのかなど親子で一緒に食物アレルギーと向き合う事が望ましいです。
小学校高学年頃になると思考や理解力が出てくるので、主体性を持って自分の人生を能動的に生きてもらう為に、敢えて思考的な負荷をかけた方が良いと私は考えています。
子ども自身で決めてもらうとしても、親心としてはアレルゲン克服のために自宅でアレルゲン摂取を進めてもらいたいところだと思います。
その場合は、親から子へアレルゲン摂取の意味・意義や子どもへの気持ちをプレゼン(説明)する必要があります。
急速免疫療法を数多く受け持たせて頂いた経験から、私は子どもたちへ以下の点を伝えていました。
・今、あなたにとってアレルゲンはとても嫌いな敵かもしれない。
・そして、そのアレルゲンはとても強くて、倒す(克服する)事が難しいと感じていると思う。
・ここで諦めてもいい、それはあなたの自由だ。
・でも、あなたの好きな〇〇はどうだろう(本人が好きな漫画やゲームのキャラクターから、ドラゴンボールやドラクエなど)
・強い敵が出てきた時に、諦めていただろうか。
・もちろん漫画みたいに、いきなり強くなって敵に勝つなんてことはないかもしれない
・でも、あなたが敵に立ち向かうのであれば、あなたのお母さんもお父さんも、僕たち病院のスタッフもみんなで知恵と勇気を出し合って、力を合わせる事もできる
・そして、少しずつ立ち向かっているうちに、そのうちアレルゲンがちょっとずつ仲間になってくれる(ドラゴンボールの敵だったキャラクターを例に出しながら)かもしれない。
・今すぐに答えを出す必要はないけど、落ち着いてゆっくり考えて、お母さんやお父さんと話し合って欲しい。
もちろん、このように伝えたからと言って、皆が辛い免疫療法に立ち向かえた訳ではありません。
ですが、自分の人生を自分で選び、立ち向かっていった子の多くはアレルゲンを克服していきました。
そういった子は日頃から、自分で考え、自分で選び、自分で結果に関する責任を負うというトレーニングをしていたのかもしれません。
大人にとっては当たり前のことでも、子どものうちから日常生活の中でちょっとした選択を子どもに課すだけでも良いと思います。
最後に一つ浪人時代の友人の話をしましょう。
彼は地方出身の良いところのお坊ちゃんで、小学校〜高校(私立)まで親の言う事を聞きながら比較的スムーズに進学していました。
そんな彼が医学部に進む際に、受験に落ちてしまい私と同じ予備校の寮に住まう事になりました。
ある日、彼が「今まで親が敷いてきたレールの上を走ってやったのに、大学落ちたらそのレールを急に外された」と言って愚痴をこぼした事がありました。
浪人生活中の彼は親の目がないせいか、良く授業をサボり遊び歩いていました。
その後、多浪しているところまでは知っていますが、現在どのように過ごしているかは不明です。
当時はそんな事もあるんだなくらいにしか感じていませんでしたが、親になって改めて考えるととても怖ろしい発言だと感じました。
親としては良かれと思い準備した人生は、彼自身望んだものではなかった為「自分」のではなく、「他人(親)」の人生を歩かされていると感じていたのかもしれません。
これは極端な例かもしれませんが、現実にあった話しです。
食物アレルギー遷延する子が増え、これから大人の食物アレルギーが重要視される中、食物アレルギーを通して、親子でどう向き合っていくのか。
私の考えが全てではありませんので、様々なご意見があるかと思います。
ですが、特に食物アレルギーが遷延しつつあるご家庭では、今一度深く考えて欲しいのです。
では、また次の記事にて
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