経皮感作の根拠となる論文の内容は?

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最近は新型コロナ対応で四苦八苦しており、ブログの更新が滞っておりました(汗

本日は皆さんがよくご存知の経皮感作の話題です。

ここ数年、「生まれて間もない赤ちゃんの乳児湿疹が食物アレルギーの原因になりうる」という事を外来にいらっしゃるお母さんの口から聞かれるようになりました。

ですが、その根拠となる論文ではどんな患者さんについて述べられているかまでご存知の方は必ずしも多くないかと思います。

今回は元論文の解説に関して解説を行い、乳児湿疹と食物アレルギーの関係性について皆さんと学びを深めていけると嬉しいです。

それでは早速、

Factors Associated with the Development of Peanut Allergy in Childhood

Gideon Lack, M.B., B.Ch., Deborah Fox, B.A., Kate Northstone, M.Sc., and Jean Golding, Ph.D., for the Avon Longitudinal Study of Parents and Children Study Team

https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa013536?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200www.ncbi.nlm.nih.gov

この論文は「The Avon Longitudinal Study of Parents and Children」というイギリス西部の 100万都市、ブリストルを中心に行われた「出生前からの子どもと両親の長期にわたる個人情報が、遺伝子研究資源とリンクされて保管されている」ゲノム(前向き)コホート研究になります。

この前向きコホート研究とは臨床研究手法の一つで、ある一時点から一定期間、対象となる患者さんの経過(未来)をひたすら追うというものです。

この研究方法を日本で例えると、福岡市で2020年1月から2021年12月に生まれた赤ちゃんを全員が18歳になるまで経過を追うといった感じでしょうか。

実際の研究では出産予定日が1991年4月1日から1992年12月31日までにあった14541人の妊婦がこの研究に登録されており、赤ちゃんが生まれる前から既に研究を開始していた事になります。

このような大規模研究は手間と暇がかかる分、研究デザイン(内容)さえしっかりしたものであれば、その結果の信頼性は高く、とても重要な意味を持ちます。

このような研究方法の種類について今後、別の記事で解説したいと思います。

では、内容の紹介です。

対象について

今回の論文では一万人以上の対象者(母親)にアンケートを配布し、約3歳までにピーナッツにより1型アレルギー反応を認めた発症した児(49例;男児28例、女児21例)を対象としています。

以下この49例を「ピーナッツ反応群」と表記します(私が説明しやすいように設定)。

このうち36例がプリックテスト(皮膚検査)を行い、29例が陽性でした。

この皮膚検査は特異的IgE抗体値(いつもの採血)結果が陽性だったと考えてもらって構いません。

尚、この論文ではお子さんへの侵襲を少なくする為なのか、採血検査は行なっていません。

残りの13例は検査に同意しない、または転居などを理由に検査を行えませんでした。

29例を対象に乾燥ピーナッツ8gの負荷試験を施行し、23例(全例皮膚検査陽性)が負荷試験陽性でした。

以下この23例を「ピーナッツアレルギー群」と表記します(こちらも私が説明しやすいように設定)。

つまり、ピーナッツ反応群(49例)は以下に分類できます。

  皮膚検査陽性・負荷試験陽性:23例、皮膚試験陰性・負荷試験陽性:0例

  皮膚検査陽性・負荷試験陰性:6例皮膚検査陰性・負荷試験陰性:7例

この結果からとても、興味深い事が言えるかと思います。

  • 過去にアレルギー症状を認めた場合で皮膚検査陽性(感作を認める)場合、ピーナッツアレルギーでない(ピーナッツ8gを摂取できる)可能性が、21%(6/29例)程度ある
  • 過去にアレルギー症状を認めていても、皮膚検査陰性(感作を認めない)場合、全例ピーナッツ8gを摂取可能であった

医療者側の意見としては、感作を認めない(採血で陰性)のなら、症状なんて出る訳ないだろうと言われるかもしれません。

ですが、親御さん達の気持ちを考えると過去に摂取した際、アレルギー症状を認めた食材に対して、恐怖を抱いてもおかしくありません。

であれば、感作を認めていてもピーナッツ8gが摂取できる(中等量の負荷試験陰性)可能性がある事や感作を認めない場合は、高い確率でピーナッツ8gが摂取できる事は意味のある結果と言えます。

ピーナッツアレルギー群と関連していた因子について

ピーナッツアレルギー群と関連している可能性がある患者さん側の要因について解析したところ、豆乳や大豆由来の粉ミルクの摂取関節の皮疹(印象としては軽度〜中等度のアトピー)、ジュクジュクした皮疹(印象としては重症のアトピー)と強く関連していました。

ですが、それぞれ関連性の強さが異なっていました。

ピーナッツアレルギー群との関連は強さ(ピーナッツアレルギーになりやすさ)は

豆乳や大豆粉ミルクの摂取している場合は摂取していない場合より3.1倍なりやすい

関節の皮疹(軽度〜中等度のアトピー)がある場合はない場合より3.8倍なりやすい

ジュクジュクした皮疹(重症のアトピー)がある場合はない場合より24.6倍なりやすい

と、ジュクジュクした皮疹(重症のアトピー)がピーナッツ群と強く関連していました。

実際にこの点について、臨床的な印象との矛盾は感じません。

一方、豆乳や大豆粉ミルクを飲んでいた症例は、ピーナッツアレルギー群とどう関係していたのでしょう?

論文中では大豆とピーナッツの交差抗原性(アレルゲンとして似通っている)事が影響しているのでは?と考察されていました。

私の見解としては、「大豆の粉ミルクを飲む+恐らく乳児湿疹が存在した➡️大豆への感作が成立し、交差抗原性のあるピーナッツにも感作してしまい、未摂取のピーナッツにアレルギー反応を起こした」のではないかと考えています。

逆に大豆の粉ミルクの摂取を継続していた場合は、大豆に対して皮膚からの感作が成立していたとしても、大豆アレルギーを発症しなかった可能性は大いにあり得ると思います。

ピーナッツオイルによる保湿とピーナッツ群との関係について

乳児の皮膚に保湿剤を使用したデータ解析では、ピーナッツアレルギー群の91%は赤ちゃんの時(生後6ヶ月以内)にピーナッツ入りクリームを使用されていました。

一方、アトピーだけでピーナッツアレルギーがないアトピー群(53%)やアトピーもアレルギーもないコントロール群(59%)と比較しても有意に高い使用率でした。

また、解析結果からピーナッツアレルギー群との関連の強さ(ピーナッツアレルギーになりやすさ)は

ピーナッツオイルを保湿剤として使用している場合は使用していない場合と比較して8.3倍でした。

この結果が恐らく最も有名な「ピーナッツオイルを乳児期に塗布していると、ピーナッツアレルギーになる」根拠になる箇所だと思われます。

ですが、この解釈には注意が必要です。

確かにピーナッツ負荷試験陽性児は91%と高い割合で、ピーナッツオイルを保湿剤として使用されていました。

一方で、残りの9%はピーナッツオイルの使用と関係なく、ピーナッツ負荷試験陽性となっていました。

また、アトピー群は53%とそれなりの割合で赤ちゃんの時にピーナッツオイルを使用しているし、コントロール群でも59%の割合で使用していました。

つまり、ピーナッツオイルの使用はピーナッツアレルギー発症に関連しているけども、ピーナッツオイルを使用しなくてもピーナッツアレルギーを発症する事もあるし、ピーナッツオイルを使用していたとしてもピーナッツアレルギーを発症しない事もある

という事が言えます。

こちらも当たり前といえば当たり前なのですが、最近世間では過度にピーナッツオイルを忌避するような印象があり、気になっていたので、今回調べてみてスッキリしました。

もちろん、茶のしずく石鹸など経皮感作する可能性を考えるとピーナッツを含む食品由来の保湿剤を勧めるわけではありません。

ですが、これらの情報を知らず一時的に赤ちゃんに使ってしまった場合などに過度に恐れる必要もないのかなと思えるようになりました!

という事で、今回は内容が大ボリュームの論文だったのでまとめるのに時間がかかりましたが、以上となります。

また次の記事てお会いしましょう。

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