皆様、ご無沙汰しております。
先日、以下のツイートをさせて頂きましたところ、多数のご反響を頂きました。
今回はこの点に関して、私なりの意見を述べる為にブログに投稿した次第です。
その日に負荷試験にいらしていた患者さんの大まかな背景(特定を避ける為、一部fakeを含む)は、中学生で複数の食物アレルギーがあり、当日は鶏卵の負荷試験を施行しておりました。
幼児期にゆで卵白の負荷試験でアナフィラキシーの既往あり。小学生の頃に鶏卵の急速免疫療法の既往あるが、途中で症状を何度か認め中断。
それ以降、負荷試験でゆで卵黄は食べる事が出来る事を確認していたが、基本的に好きではない為、自宅で食べる事は滅多にない。
定期的な検査で、元々クラス6だった卵白・オボムコイド特異的IgE抗体価が、クラス2〜3くらいまで低下してきた為、微量(1g以下)を総負荷量に設定したゆで卵白の負荷試験を施行した。
負荷試験当日のカンファレンスにて、このお子さんに対して今後どのようなアプローチを行うのが良いだろうか?と主治医よりアレルギーチームのメンバーに投げかけられました。
その場では、誰も明確な答えに辿り着けなかったので、私は負荷試験中に以下の内容を質問しました。
・鶏卵は好きか嫌いか?
➡️嫌い
・これからどうなりたいか?
➡️わからない
・お友達と外で食べたりする機会がありえるが、その場合どうするか?
➡️わからない
・部活の遠征や修学旅行では、親はついてこれない事もあるが大丈夫か?
➡️わからない
結果として鶏卵が嫌いである事以外は、食物アレルギーに対して考えるという事自体、初めて意識したのかなと言う印象でした。
このようにコミュニケーションの一環として、現在でどのように考えているのか?また、今後どうなっていきたいのか?に関して質問する事は、本人がどの食物アレルギーに関してどの程度関心があり、どちらの方向を向いているのかを理解するのに役立ちます。
中学生は幼稚園生や小学生の時と異なり、活動範囲も増えますし、食事を含めた行動の自由度も飛躍的に増加します。
また、アイデンティティを確立する時期でもあり、そこに内包される食物アレルギーをどう捉えていくのか?と言う点は今後の心と身体の成長に切っても切れない関係にあります。
先ほどの質問から、今まさに食物アレルギーについて考えるスタート地点に立っているのだと理解した私は、今後予測されうる3つの道を提示しました。
現状維持:ほぼ完全除去の状態を継続。中学生になるまで耐性獲得しておらず、鶏卵の特異的IgE抗体値は低下してきているとはいえ、今後劇的に食物アレルギーが改善する可能性は低い。
微量の鶏卵摂取:今まで殆ど完全除去の状態であったが、10数年かけてクラス2-3まで鶏卵の特異的IgE抗体価が低下してきている。
今回の負荷試験が陰性であれば、栄養食事療法の範疇での微量の鶏卵摂取を行う事で、偶発的に起こるアナフィラキシーを予防できたり、少量の鶏卵(鶏卵を含む加工品)の摂取が出来たりするようになる可能性は十分にある。
免疫療法:負荷試験結果が陽性であっても、耐性獲得を目指して免疫療法を導入する事は可能である。
以前のように急速法による免疫療法は行えないが、緩徐免疫療法は当院でも導入可能。
ただ、中学生になり時間の無い中で治療を継続するのには、相応の根気が必要である。
また、前回の免疫療法のように自宅で鶏卵を摂取した際に、アレルギー症状を認める場合もある。
最後に、どの道を選ぶのかはその子自身の権利であり、その選択に対して我々(医療者もご両親も)最大限サポートする事をお伝えしました。
暫くして、本人に今後の希望をについて尋ねたところ、「食べたくない」との事でした。
その話を受け、私も「わかりました。無理をしてまで食べる事はないよ。」とお伝えしました。
ただ、この点について本人と親御さんとでこれまでに話し合ってきた様子が無かった為、負荷試験中でもいいし、帰宅してからでも良いので、一度しっかりと食物アレルギーに関して話し合ってほしいとだけ伝えました。
その後、その子は微量のゆで卵白を食べた後、症状を認める事なく負荷試験を終えました。
そして、負荷試験後の栄養師を交えての栄養食事指導のタイミングで再度、本人に負荷試験の結果を踏まえどうしてみたいか?と尋ねたところ、本人より
「良くなりたいから、少しずつなら食べていきたい」との言葉が聞かれました。
その時に初めて、「嫌い」以外の意見を本人から聞けて、とても喜ばしく思いました。
また、「嫌い」だと言う感情と共に「良くなりたい」と言う願望が眠っていた事に、本人自身が気付けた事。
そして、その願望の達成の為に、感情を超えて自分自身で「食べる」と言う言葉が出てきた事に称賛したいと思いました。
食物アレルギー診療において、絶対的な「正解」と言うものは無いのだと感じています。
ですが、その上で私の食物アレルギーに対する考え方は、「安全かつ簡便に食べていけるならば、積極的なアレルゲンの摂取を勧める」です。
その理由は二つです。
一つ目は、栄養食事指導の範疇であっても、定期的かつ微量なアレルゲンの摂取は、アレルギー性鼻炎に対する舌下免疫療法のように、体内の過剰な免疫反応を抑制する方向に働くである可能性を有しているからです。
患者さん向けのブログ記事なので、マニアックな免疫の機序は省略しますが、ざっくりと説明するとアレルゲンの経口的な摂取により消化管を経由して、制御性T細胞に働きかけIgG4抗体産生にシフトチェンジする事を期待している事になります。
もう一つは、お子さんやそのご両親のアレルゲンに対する心理的なハードルを下げる事です。
長期に特定のアレルゲンを避けてきたご家族の場合、そのアレルゲンに対してマイナス感情(嫌い・匂いがいや・生理的に嫌)が強く、忌避される傾向にあります。
ですが、これから仲良くなりたいと思っているアレルゲンを一方的に嫌っていたままでは、良くなりようがありません。
その為、安全性に配慮かつ食べても気にならない程度のごく微量のアレルゲン摂取を日常的に行う。
そうする事で、そのアレルゲンに対して「美味しいな」とか「好き」といった陽性感情にまでは至らなくとも、「案外悪いやつじゃ無いかも」くらいのニュートラルな気持ちまでは変化させる事が可能だと感じています。
また、そうやって心のハードルが下がったタイミングで、「美味しいな」と思える加工品が食べれたりすると、その成功体験により「嫌い」だったアレルゲンが「好き」になる日もあるかもしれません。
このようにして、身体的な面と心理的な面の両面に栄養食事指導ならば働きかける事が出来るのでは無いかと考えています。
一方で、この方法が合わない程重症な患者さんが少なからずいらっしゃる事も理解しておく必要があります。
しっかりと「完全除去」を行う事も食物アレルギー診療における重要な方針の一つです。
一見すると矛盾するように聞こえるかもしれませんが、「食べる」のか「食べない」のかは、食物アレルギーを持つお子さんの重症度によります。
その為、以前のブログ記事にも記したように、
都度、負荷試験を適切に行い適切な指導を受けるようにされて下さい。
以上、参考になれば幸いです。
最後に記したリンク先のブログの内容も、負荷試験中にお子さんにお伝えしました。
こちらも、その内バージョンアップする予定です。
また、次の記事でお会いしましょう。
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