どこからどこまでが食物アレルギー?

食物アレルギー

皆様、大変ご無沙汰しております。

学会発表の準備もひと段落し、約ひと月ぶりに筆を取りました。

今回は食物アレルギーの「診断」について、解説していきたいと思います。

食物アレルギーの定義

突然ですが、食物アレルギーの「定義」を皆様ご存知でしょうか?

食物アレルギー診療ガイドライン2021では食物アレルギーとは「食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起される現象」と定義付けられています。

ちょっと何を言っているのかよくわかりませんね。

もう少し分かりやすいように、上の定義を分解してみたいと思います。

原因:食物

病態:抗原特異的な免疫

結果:不利益な症状(蕁麻疹や咳など)

となります。

このように文章を一つ一つ見てみると、少し分かりやすくなります。

食物アレルギーの定義以上であり、診断する際にはこの定義に当てはまるかどうかとういう点が重要になります。

つまり、

「食べ物が原因」「抗原特異的な免疫が証明できる」「何らかの不利益な症状」

この3項目を同時に満たす事で食物アレルギーであると診断出来ます。

そんなの当たり前過ぎて、解説するまでもないと百戦錬磨の読者の方々から怒られそうなので、一つ例を挙げてみたいと思います。

皆様は「パンケーキ症候群(Pancake Syndrome)」という疾患をご存知でしょうか?

(症例:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jshowaunivsoc/78/3/78_282/_article/-char/ja/)

そう、ダニが混入した小麦粉で作ったパンケーキやお好み焼きを摂取した後に時にアナフィラキシーに至る疾患です。

この疾患を先ほどの定義に当てはめてみると…

原因:パンケーキ(もしくはお好み焼き)

病態:ダニ抗原に対する特異的反応

結果:アナフィラキシー

と、全て当てはめる事ができます。

そう、つまりパンケーキ症候群は食物アレルギーにな…らないですよね。

正確には原因はダニを含んだパンケーキ(もしくはお好み焼き)であり、パンケーキを作る小麦粉や卵に反応しているわけではありません。

一見すると、食物アレルギーかと思われるようなパンケーキ症候群ですが、その実食物アレルギーの定義から外れている事が分かります。

そして、この考え方を理解していると他の場面でも応用がききます。

例えば、原因抗原となる卵は未摂取だけれども、卵白・オボムコイド特異的IgE抗体値が100UA/ml以上の場合、食物アレルギーであると言えるかというと

原因:鶏卵

病態:鶏卵抗原に対する反応

結果:症状なし

そうなんです。鶏卵に対する採血の数値からは鶏卵アレルギーとしか思えないような状態なのですが、この症例を正確な定義に当てはめた場合「食物アレルギー」を発症しているとは言えません。

専門的には鶏卵に対して感作を認めている(未発症)状態となります。

なるほど、確かに定義上はそうなるかもしれない…と。

ただ、この事を知っている事が何の役に立つのでしょうと思われるかもしれません。

先ほどは病態(鶏卵の数値が陽性である点)を起点としてみましたが、今度は結果を起点として例を挙げてみましょう。

保育園もしくは幼稚園、学校で急に蕁麻疹を認めた場合はどうでしょうか?

定義に当てはめてみましょう。

原因:不明

病態:不明

結果:蕁麻疹

となります。

世間一般では「蕁麻疹」=「食物アレルギー」との印象が強く、この場合は小児科外来やアレルギー専門外来を受診され、検査(主に採血検査)をご希望される親御さんが多いかと思います。

では、病態において採血で陽性となった食べ物(抗原)が複数あったとします。

それらの「全て」食材が「原因」なのでしょうか?

答えは「必ずしも全てが原因とは言えない」という事になります。

何故ならば、皆様ご存知の通り「感作がある(採血で陽性になった)」=「食物アレルギー」ではないからです。

また、一般的な食物アレルギーの検査(Immuno CAP)は13項目が上限(保険点数により)となる為、「病態(採血結果)」から「原因」を探ろうとすると、多くの原因を調べたい場合は項目数が足りません。

その為、専門医は詳細に病歴を聴取する事で「原因」を推定し、採血結果により「病態」を証明し、「食物アレルギー」であると「診断」します。

巷では同時に30数項目ものIgE抗体を検査できるものもありますが、往々にして十分な病歴の聴取を行わないままに採血検査に行われる事も多く、採血結果をどう判断して良いかわからないまま患者さんを紹介される場合が少なくありません。

そして、時に採血項目が陽性だったというだけで、不要な(元々症状なく摂取可能であった食物まで)除去の指示を受ける場合もあります。

また、年齢や元々の食物摂取歴により想定されるアレルゲンが異なる事を加味した上で、専門医であれば検査(病態の把握)を行います。

その為、もしお子さんに新たな食物アレルギーを疑うべき状況にある場合は、「原因」・「病態」・「結果」の全てが食物アレルギーの定義に当てはまるのか今一度考えてもらい、適宜主治医と相談して今後の方針を立てていくのが望ましいかと思います。

以上、食物アレルギーの診断(定義)に関して皆様の参考になれば幸いです。

また、次の記事でお会いしましょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました