皆様、そろそろ春の兆しが見えて参りましたが如何お過ごしでしょうか?
本日は軽症の鶏卵アレルギーにおける自宅での除去解除の方法について解説したいと思います。
我々専門医はどの点を見て、重症度を判断し負荷試験に繋げて、除去解除への道筋を立てているのかをご理解して頂ければ幸いです。
それでは、本日は(架空の)症例提示から行いたいと思います。
・2歳半、女児
・鶏卵アレルギーで当院通院中
生後1-2ヶ月時 軽度乳児湿疹あり、キンダベートの間欠塗布で改善
生後6ヶ月 離乳食を開始
生後7ヶ月 初めて卵ボーロを3粒摂取し、30分後から顔に発赤を認めた。
全身に蕁麻疹を認めた為、当院救急受診。
抗ヒスタミン薬内服後徐々に症状改善。
生後8ヶ月 院内紹介されたアレルギー外来を受診した。
総IgE値:20 卵白特異的IgE値(以下sIgE):7.5 オボムコイドsIgE:1.0
生後10ヶ月 ゆで卵黄負荷試験 総負荷量1/2個(1-2-5g)陰性
➡️最終摂取量(ゆで卵黄5g)から摂取開始、週に3-4回
10回摂取し、全く症状を認めなければ総負荷量(8g)まで1gずつ増量
1歳2ヶ月 約半年ぶりに採血施行
総IgE値:40 卵白sIgE:3.5 オボムコイドsIgE:1.0
1歳4ヶ月 ゆで卵白負荷試験 総負荷量:少量(0.2-0.5-1g)陰性
➡️最終摂取量(ゆで卵白1g)から摂取開始、週に3-4回、増量なし
1歳8ヶ月 総IgE値:100 卵白sIgE:2.0 オボムコイドsIgE:0.4
1歳10ヶ月 ゆで卵白負荷試験 総負荷量:中等量(2-5-10g)陰性
10回摂取し、症状を認めなければ総負荷量近く(20g)まで1gずつ増量
20gまで到達したら、全卵1/2個分の炒り卵や卵焼き、目玉焼きをトライ
2歳2ヶ月 総IgE値:200 卵白sIgE:1.0 オボムコイドsIgE:0.34
低加熱鶏卵加工品(プリン)を摂取した30分後外来受診し、症状なし。
➡️低加熱鶏卵加工品自宅トライ(マヨネーズや茶碗蒸しなど)
2歳6ヶ月 生の鶏卵以外、日常生活で問題無くなり、保育園でも除去解除とした。
➡️アレルギー外来卒業
当院の負荷試験と食事指導方法を架空の軽症鶏卵アレルギー症例を参考にご紹介させて頂きました。
鶏卵の特異的IgE抗体値はざっくりとしていますが、実際に数名の鶏卵アレルギー児を参考にしているので、大きく病歴がズレているという事もないと思います。
さて、この症例のポイントとなる点はいくつかありますが、以下に要点をまとめます
・短期間だけど、乳児湿疹が存在した点
・卵ボーロの摂取が初めての鶏卵摂取であった点
・生後8ヶ月時から卵白・オボムコイドsIgE値が低く、その後も上昇しなかった点
・自宅でアレルギー症状を誘発する事なく、定期的に摂取ができた点
・短期間だけど、乳児湿疹が存在した点
乳児湿疹が食物アレルギーの感作が進む要因の一つである事は巷でもよく知られるようになりました。
この症例における鶏卵に対する感作が湿疹によるものと断言はできませんが、離乳期の鶏卵摂取に関して、もう少し慎重に進めても良かったかもしれません。
2017年に日本小児アレルギー学会より、「鶏卵アレルギー発症予防の提言」にて、湿疹を有している児はアレルゲン性の低い加熱卵黄から開始する事が推奨されています。
・卵ボーロの摂取が初めての鶏卵摂取であった点
卵ボーロは口の中でほろほろと溶けるので、離乳期に与えたくなる気持ちは良く理解できます。
ですが、卵ボーロは思ったよりアレルゲン性が低くない事が知られています。
(節子ちゃんのデータ)
これは、通常のゆで卵白であれば、卵のタンパク質同士がジスルフィド結合(タンパク質同士が強固に結びつく反応)を起こしますが、卵ボーロの大半の成分であるデンプンは炭水化物が主である為、ジスルフィド結合が発生しません。
このジスルフィド結合とアレルゲン性については、こちらの記事をご参照下さい。
また、初めて食べた鶏卵で比較的強い症状をきたして救急を受診される食品としては、フレンチトーストやかきたま汁のおじやといった加熱が緩く、鶏卵としてのアレルゲン性が高いものをしばしば見かけます。
周囲に離乳食を進めているくらいのご家庭をご存知の場合は、ぜひ卵黄から進めるようにお話ししてみてください。
・生後8ヶ月時から卵白・オボムコイドsIgE値が低く、その後も上昇しなかった点
卵白sIgE値が低い事は、鶏卵アレルギーが耐性獲得しやすい事の重要な因子ですが、この症例では初回の症状がそれなりに強かった割には、しっかりと加熱した鶏卵には全く症状を認めず耐性獲得に至っています。
その一つの理由として、鶏卵の加熱成分が摂取可能かに大きく影響を与えるオボムコイドsIgE値が低かった事が挙げられます。
元の鶏卵sIgE値が低かった為、特に負荷試験を経て自宅での定期摂取を行わずとも、完全除去のままでも「自然に」耐性獲得したかもしれません。
ですが、私達は日頃のアレルギー診療で低かった抗体値が、アレルゲンの完全除去を行なっている間にかジワジワと上昇し、アレルギーが遷延する症例を目にする事があります。
私から言えるのは、抗体値が低いからといって油断は禁物だという事です。
ぜひ、食物アレルギー診療ガイドラインにあるように「必要最小限の除去」に基づいて、食事指導を受けるようにされてください。
・自宅でアレルギー症状を誘発する事なく、定期的に摂取ができた点
免疫療法は積極的にアレルゲンを摂取する事で耐性獲得を目指す、研究的な治療法です。
一方、最近の研究では「必要最小限の除去」の下、積極的に鶏卵を摂取するのではなく、日常的に安全な量の鶏卵摂取を行う事で耐性獲得に得られる可能性がある事がわかってきました。
以上、軽症の鶏卵アレルギーの負荷試験に基づいた栄養食事指導方法について解説いたしました。
施設毎に負荷試験の方法や除去解除に至る指導法に若干の違いはあるかと思いますが、大筋は一緒だと思っています。
ぜひ、主治医の先生と良く相談し、適切なタイミングで負荷試験を行い、安全に摂取可能な量の鶏卵をご自宅で練習してみてください。
以上、参考になれば幸いです。
また次の記事でお会いしましょう。
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