牛乳アレルギー児における負荷試験の重症度予測について

食物アレルギー

以前鶏卵アレルギー児における、負荷試験の重症度予測に関する解説を行いました。

今回はあいち県の子ども病院からの報告を参考に牛乳アレルギーについて解説したいと思います。

Development of a prediction model for a severe reaction in cow’s milk challenges

結論から述べると

牛乳特異的IgE抗体価

牛乳完全除去

非特異的IgE値(総IgE値)が1000未満

が高いと、牛乳負荷試験における重症度が高くなる可能性があります。

以下解説です。

この研究は負荷試験陽性となった症例を重症度が高い群重症度が低い群の2群に分け、彼らの背景から重症度の高いを症例に多く認められた因子について検討しています。

2012年度の一年間に220例もの牛乳負荷試験を行い、うち陽性144例(約66%)からデータ97例について検討しています(37例は検査データ不十分、10例は免疫療法の患者さん)。

彼らは負荷試験の重症度をTS/proという指標(モノサシ)で重症度が高い群と低い群を分けています。

このTS/proとは何かというと、負荷試験で出た症状スコア(あいち小児 独自のASCAスコアというものであり、食物アレルギー診療ガイドラインに記載あり)を摂取したアレルゲンタンパク量で割った数値の事を指しています。

恐らくこれは食物アレルギーの重症度が高いと私たちが考えるのは以下の二つの時だからではないか、個人的に考えています。

1.アナフィラキシーなど強い症状が誘発される事

2.微量〜少量でアレルギー症状が誘発される事

この2点を頭について、TS/proを捉えてみると

割り算の分子に当たる症状スコアは、重症な症状が出た場合に負荷試験の重症度(TS/proの数値)は高いという判定になります。

一方、分母に当たる摂取したアレルゲンタンパク量は少ない場合に、負荷試験の重症度(TS/proの数値)は高いという判定になります。

つまり、微量のアレルゲンタンパク質を摂取しただけで、アナフィラキシーを認めるような症例では負荷試験の重症度はめちゃくちゃ高くなる(TS/proの数値が最も高い)と評価しているようです。

この感覚は実際の臨床と似たような感じであり、イメージしやすいのではないでしょうか?

そしてこの研究ではTS/pro:80を境に重症度が高い群(TS/pro 80以上)重症度が低い群(TS/pro 80未満)に分けています。

その結果、重症度の高い群を予測する重要な因子として、

牛乳特異的IgE抗体価

牛乳完全除去

非特異的IgE値(総IgE値)が1000未満

を挙げています。

この3因子を難しい統計処理を行なってポイントを割り振り、簡単に負荷試験結果を予測しています。

それぞれのポイントの割り振りは

牛乳特異的IgE抗体価(クラス1毎に一点;最大6ポイント)

牛乳完全除去(2ポイント)

非特異的IgE値(総IgE値)が1000未満(2ポイント)

と割り振られて最大10ポイントになります。

このポイントが8以上なら重症度が高い群の(TS/pro 80以上)可能性があり

重症例:8ポイント)

牛乳特異的IgE抗体価:40.0UA/ml(class4)➡️4ポイント

牛乳完全除去あり➡️2ポイント

非特異的IgE値(総IgE値):500IU/ml➡️2ポイント

5未満であれば、重症度が低い群の(TS/pro 80未満)可能性があります。

軽症例:4ポイント)

牛乳特異的IgE抗体価:2.2 UA/ml(class2)➡️2ポイント

牛乳完全除去なし➡️0ポイント

非特異的IgE値(総IgE値):500IU/ml➡️2ポイント

と、数値に現してみるとなんとなくイメージしやすいかと思います。

最後にこのTS/pro 80はどれくらいの重症度かというと、

牛乳8.5ml(牛乳タンパク濃度3.3%とすると、タンパク量は0.28)摂取して、

局所の蕁麻疹+喘鳴(喘息のようなゼーゼー)が出た時に、TS:25となるようで、

TS/pro=25/0.28=89

と(論文より)計算するようですが、難しいのでこんなもんだと思っていても良さそうです。

最後に私個人がこの検討で最も興味深い点は、負荷試験で重症の症状が出ると言っているのではなく、負荷試験の重症度(TS/pro)が高くなると表現している点だと思います。

つまり、重症度(TS/pro)が高い群が予測されたとしても、

分母のpro(負荷量)を少なく設定すると、低いTS(弱い症状)になる可能性があるし、

pro(負荷量)を多く設定すると、高いTS(強い症状)になる可能性があると言えます。

もちろん、予測ですので100%結果が当たるわけではありません。

ですが、患者さんの重症度が高いかどうか前もって予測しておく事は負荷試験の安全性を高める事に影響を与える可能性があります

尚、TSの計算方法に関して、食物アレルギー診療ガイドライン2021の巻末資料にも掲載されており、一般的とは言えないまでも小児アレルギー学会公認の評価方法のようです。

今回は数字が沢山あり、なかなか理解し難いかもしれません。

その為、牛乳の抗体価や摂取状況が負荷試験結果にどう影響するかだけでもお伝えできれば幸いです。

では、また次の記事にて

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