本日は卵殻カルシウムに関する話題です。
食物アレルギー児のうち、牛乳アレルギーを持つ場合特に問題になるのが、カルシウムの不足です。
そして、牛乳アレルギーを持つお子さんは鶏卵アレルギーも合併している場合が少なからずあります。
そんな時に頼りになる、食材の一つは卵殻カルシウムです。
卵殻カルシウムは強いアルカリ性とえぐみが特徴の焼成カルシウムと臭いが少なく、食品に応用しやすい未焼成カルシウムに分けられます。
実際にスーパーに並んでいる商品の食品表示には、加工品としての相性から未焼成カルシウムが使用されている事が多い印象です。
そして、食物アレルギーについて学びが深い皆様はご存知かと思いますが、鶏卵アレルギーの特徴として鶏卵は加熱によりアレルゲン性が低下します。
逆に言えば、生卵や加熱が緩い鶏卵はアレルゲン性が高く、摂取した際にアレルギー症状を認めやすいという事になります。
では、卵殻カルシウムのうち「未」焼成カルシウムのアレルゲン性はどうだろうか?という疑問が湧いてくるかと思います。
その疑問に対する回答になるのが、こちらの論文です。
卵殻未焼成カルシウムのアレルゲン性について
海老澤元宏、田知本寛、池松かおり、杉崎千鶴子、増田泰伸、木村 守
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/54/5/54_KJ00003601580/_article/-char/ja/
論文発表された年は2005年ですので、今から15年近く前になりますが、知っておいて損はない内容になっています。
この研究でわかった事
- in vitro(試験管内)の卵殻未焼成カルシウムの反応が低い(ほぼない)事を確認した
- in vivo(生体内=負荷試験)で卵殻未焼成カルシウムの反応がない事を確認した
この2点になります。
in vitro(試験管内)の卵殻未焼成カルシウムの反応が低い(ほぼない)事を確認したについて
これは電気泳動+ウエスタンブロットという実験により、評価しています。
なんだか難しいので、一つづつ説明いたします。
まず電気泳動について簡単に関して
ゼリー状(障害物あり)のような膜にタンパク質(主にマイナスイオンを放出)をセットして、電気を流すと、プラス側にタンパク質を引っ張ります。
その際に、大きなタンパク質はゼリー内の障害物に引っかかり、小さなタンパク質は障害物に引っかからず、より遠くまでプラス側電極まで引っ張られます。
これらの作用により、一つの塊として存在していたタンパク質を細かく分離する事ができます。
さらに、ウエスタンブロットという全く聞きなれない研究方法は次のようなものになります。
この分離したタンパク質のうちアレルゲン反応を起こすタンパク質について調べる事ができるのです。
その方法は、先ほどの電気泳動で得られた分離されたタンパク質に、患者さんの血清(今回でいうと卵白特異的IgE抗体価を含んだもの)を振りまいて、アレルゲン反応を起こすタンパク質と反応させます。
そこで、患者さんのアレルゲン特異的IgE抗体価と反応しているタンパク質が、アレルギーの原因タンパク質であると推定する事ができます。
今回の論文では未焼成カルシウムは、患者さんの卵白特異的IgE抗体に全く反応を認めませんでした。
同時に卵のアレルゲン量も測定しており、その結果は可溶性タンパク質1g中に8μgとごく僅かでした。
極端な話、卵殻カルシウムを1gも摂取する機会はない事を考えると、実際に食品中に含まれる量はμg以下、ng(ナノグラム)と想定されます。
ngという単位は、体がアレルギー反応を起こしうる単位であるμg以下ですので、in vitro(試験管)レベルの評価では、未焼成カルシウムは問題ないと言えます。
in vivo(生体内=負荷試験)で卵殻未焼成カルシウムの反応がない事を確認した
実際に鶏卵アレルギーの患者さんに負荷試験を行ったらどうなるのか?とう言う点まで言及しているのが、この論文の素晴らしい点だと思います。
過去に全卵負荷試験陽性であった鶏卵アレルギーの患者さん「卵白特異的IgE抗体価(class3;2例、class4;2例、class6;2例)」に対して、未焼成カルシウム1g(結構多め)を5分割、15分間隔で負荷試験を行いましたが、全ての症例において全く症状を認めませんでした。
論文では「未焼成カルシウムは、その製造方法により卵白の混入の程度が異なることが予想されるため、すべての商品が卵アレルギー患者にとって安全であるとは言い難い」と記載されておりますが、私の拙い経験では臨床的に問題になった事はありません。
勿論例外がないとは言いませんが、基本的に卵殻カルシウムは焼成・未焼成関係なく、鶏卵アレルギー患者さんがアレルゲン性を気にせずに摂取しても良いと言える食材と言えるのではないでしょうか?
本日は以上となります。
また次の記事にてお会いしましょう。
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