負荷試験で重症の症状にならないようにするためには⁈

食物アレルギー

前回(変わりゆく食物アレルギー診療について行こう!〜その②〜)・前々回(変わりゆく食物アレルギー診療について行こう!〜その①〜)と負荷試験にまつわる記事でしたので、今回は負荷試験の際に私が実践している、考え方や負荷試験の方法についてお伝えしたいと思います。

まず、大前提として食物アレルギーにおける負荷試験時の私の頭の中は

アレルギー症状=負荷食材のアレルゲン力(りょく)✖️負荷食材に対する身体の反応性

とイメージしながら、負荷試験を組み立てています。

一つずつ解説します。

1. 負荷食材の食材のアレルゲン力(りょく)

これは、総負荷量アレルゲンの状態とで成り立ちます。

総負荷量は、食物アレルギー診療ガイドライン(以下JPGFA)2016以降、少量〜中等量〜日常摂取量と3段階に分けた事は前回お伝えした通りです。

アレルゲンの摂取歴がない場合や、アレルゲン特異的IgE抗体値(以下sIgE値)が高いなど、重症のリスクが高い場合は、総負荷量を少量に設定し、リスク管理を行います。

アレルゲンの状態は、例えば卵だと加熱具合でアレルゲン性が異なる事はよく知られていますが、他に鶏卵と小麦を一緒に高温で加熱する事で、アレルゲン性が落ちます。

同様に、花粉-果物アレルギー症候群の場合は生の果物ではなく、ジュース等加工される事でアレルゲン性が変化します。

これら2つの要素を組み合わせて、負荷食材のアレルゲン力(りょく)を調整します。

2.負荷食材に対する身体の反応性

現在のアレルギー診療に於いて、個々の患者さんの負荷食材に対する身体の反応性を測る尺度は存在しません。

ただし、負荷試験に関して最も重要なのが、この「負荷食材に対する身体の反応性」です。

一体どの程度までアレルギー症状を誘発させずに負荷食材を摂取できるのか?

一体どこまで摂取したら、アレルギー症状が誘発されるのか?

これらの疑問に対する、最も有用なカギは「過去の症状誘発歴」になります。

食物アレルギーの状態が一日や二日程度では急に変化しないものと考えると、数週間前や数ヶ月前に起きた誤食のエピソードは、負荷食材に対する身体の反応性を知るまたとない機会です。

その為、食物アレルギー診療では病歴の問診が重要視されています。

以上のように、負荷試験結果に関わる要素を分解していくと、負荷試験中どのように振る舞えば良いかが自ずと見えてきます。

負荷食材のアレルゲン力(りょく)負荷食材に対する身体の反応性の二つの要素のうち、実際に私達にコントロールできるのは負荷食材のアレルゲン力(りょく)だけです。

更に、負荷食材と負荷予定量は負荷試験当日までには決まっているので、実際に微調整するとしたら、総負荷量だけになります。

ここで、総負荷量も負荷試験当日までに決まっているはずでは?疑問に思うかもしれません。

確かに予定総負荷量は決まっていますが、単回摂取による負荷試験を除いて、実際の総負荷量は負荷試験を実際に行っている医師もしくは看護師によって決まります。

つまり、初回負荷量以降、2度目や3度目の負荷量を進めるかどうかは、負荷試験担当者の判断に委ねられているという事です。

食物アレルギーの患者さんは、基本的にアレルゲンとなる食物を咀嚼・嚥下・消化・吸収という一連の消化器の活動を経て、症状が誘発されます。

一般的に食物が胃内に停滞する時間は2-3時間程度と言われています。

ただしこの時間は胃内から食物が無くなるまでの時間なので、実際には摂取から数十分かけて消化が進んでいきます。

すると消化を受けた食物から徐々に吸収されていきます。

食材によって消化・吸収までの時間は異なるはずですが、吸収された食物のアレルゲン力が身体の反応性(閾値)を超えた場合、アレルギー症状が誘発されると考えられます。

今回最も伝えたい点は、消化・吸収が十分進む前に次の負荷量の摂取を進めた場合どうなるかという事です。

アレルギー症状が誘発される閾値量を超えた瞬間に、どんな患者さんでも一瞬で全てのアレルギー症状が出現するわけではありません。

まずは一つの臓器からアレルギー症状を認め、その後そのまま症状が落ち着く事もあれば、総負荷量が多ければ徐々に複数臓器の症状が強く現れる事もあります。

逆に、初回負荷量以降、2度目や3度目の負荷量を進める前に、負荷間隔を意図的に延長する事で、アレルギー症状が強く出現する事を抑えられるかもしれません。

その為、「負荷試験で重症の症状にならないようにするためには⁈」に対する、私の回答は「観察時間を10分程度延長する」となります。

なんだ、そんな事か…と思われるかもしれませんが、私は過去にこの方法で結果的に負荷試験陽性となった患者さんへ更に多い量の負荷を回避する事が出来るのを何度も経験しています。

負荷試験前には十分クリアできるだろうと思われた予定総負荷領も、実際に負荷試験を進めると案外想定通りに行かない事は多いです。

負荷試験時に実際に患者さんと対峙し、客観的に判断できるアレルギー症状だけでなく、患者さんの活気や表情など五感をフルに活用し、負荷試験を進めるのか止めるのか待つのか判断する事をお勧めいたします。

では、また次の記事にて

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