私はアレルギー診療で、常々疑問に思っている事があります。
なぜ、赤ちゃんには湿疹ができやすいのでしょうか?
無論、全ての赤ちゃんに発生するものではありません。
一方、赤ちゃんに湿疹を認めるのは珍しくなく、よほど湿疹が悪化しない限り気にしない親御さんも少なくありません。
このように多くの赤ちゃんに湿疹を認めたとしてもあまり問題視される事は少ないですが、例えば30台になった途端に数多くの大人が急に顔や体幹に湿疹を認めるような事はありません。
改めて問います。
「なぜ、乳児は湿疹ができやすいのでしょうか?」
この問いに対する一般的な答えはまだ、明らかにされていません。
その為、最近私が収集した情報を元に考察してみたいと思います。
結論から述べると、そのカギの一つは「妊娠」にあるのでは無いかと考えています。
その根拠として
1. 赤ちゃんはお母さんにとって、免疫学的「非自己」である
➡️妊娠するにあたり、免疫寛容が働いている
2. 免疫の種類によっては、非自己との認識により拒絶反応(流産)を示す場合がある
➡️拒絶反応を示す免疫状態が優位にならないよう、バランスをとっている
以上が挙げられます。
赤ちゃんはお母さんにとって、免疫学的「非自己」である
大前提として、赤ちゃんの遺伝子はお父さん由来のものとお母さん由来のものから成り立っています。
その為、赤ちゃんはお母さんのお腹にいる胎児の時点でお母さんの遺伝子と異なり、別々の存在です。
そして、赤ちゃんとお母さんが別の個体であるという事は、免疫的な側面では「自己」と「非自己」として分けられ、互いの免疫が反応する対象となります。
成熟したお母さん由来の免疫と未成熟で十分な働きを持たない赤ちゃんの免疫、その間に特別な状態が存在しなければ、赤ちゃんは一方的に免疫的な反応により排除されてしまいます。
その一つの結果が流産です。
特に習慣性流産の女性は正常妊娠の女性と比較して、血液中の単核細胞中にTh1サイトカインをより多く産生する事が分かっています。
T-helper 1-type immunity to trophoblast in women with recurrent spontaneous abortion
このサイトカインとは生物における免疫学的な情報伝達物質で、今までに沢山のサイトカインが存在している事が判明しています。
特に、Th1サイトカインは先日ツイートしたように細胞内微生物や臓器の拒絶反応に強く関係します。
その為、妊娠を継続する為にはこのTh1サイトカインを抑える働きが必要になります。
その際に重要な役割を示すのが、制御性T細胞(T-reg)です。
私自身T-regは食物アレルギーやアレルギー性鼻炎の免疫療法等でしか耳にした事がありませんでしたが、実は妊娠と強く関わっている事を知り衝撃を受けました。
つまり、子どもの食物アレルギーが免疫療法により耐性獲得する事と、女性が妊娠し胎児を育む事は同じ免疫系(制御性T細胞)がとても重要な働きを有していたのです。
そして、妊娠中にはTGF-βというT-regに関係あるサイトカインが他のサイトカインと比較して臍帯血中で極端に高い事が分かっています。
Constitutively high-level expression of TGFβ isoforms in cord blood and its relationship to perinatal findings
また、T-regは他にインターロイキン-10というサイトカインを放出し、他のT細胞(Th1やTh2、Th17)の働きを抑制します。
ですが、T-regによる免疫寛容の働きで完全に免疫を抑制してしまうと、免疫不全となります。
勿論、妊娠中でも細菌やウイルス感染症は容赦無く悪さをしようとしてくるので、それらに対する免疫系まで完全に抑制するわけにはいきません。
その為、これらの免疫寛容は主に母体における子宮の周囲という限られた場所を中心に働きます。
つまり、妊娠中のお母さんは赤ちゃんを守る為の免疫寛容と自然に存在する病原体に対する正常な免疫との絶妙なバランスの上で成り立っている事になります。
免疫の種類によっては、非自己との認識により拒絶反応(流産)を示す場合がある
病原体に対する正常な免疫を保つ必要があると言っても、拒絶反応に関連のあるT細胞(Th1)が強いままでは、拒絶反応(流産等)を起こしかねません。
その為に性ホルモンの一つであるプロゲステロン(黄体ホルモン)がTh2サイトカインを放出する事によって、拒絶反応に関連するT細胞(Th1)を抑制し、Th2を優位に保ちます。
そして、このプロゲステロンは出産するまで高値を保ちます。
つまり、赤ちゃんは拒絶反応を避ける為にお母さんの免疫寛容(T-reg)により守られつつ、胎内ではTh2が優位なアレルギーの状態で過ごしていると考えられます。
更に妊娠後期にはT-regは減少傾向なる為、免疫を抑制する効果が徐々に薄れていきます。
以上のことから考えられるのは、生まれる直前まで赤ちゃんはお母さんのお腹の中でアレルギーの状態で過ごして来たという事です。
であるならば、アレルギーと関連がある湿疹をきたす赤ちゃんが生後数ヶ月頃揃ったように現れてもなんら不思議ではありません。
一方、産婦人科の先生方の間では「妊娠中の気管支喘息の状態は軽快、不変、増悪が各々1/3ずつである」という事がまことしやかに囁かれています。
これは、今まで解説した状態の中でも、個体差(制御系が優位、バランスが取れている、Th2系が優位)が存在する可能性を示唆しているものと思われます。
同様に赤ちゃん側も個体差が存在した場合、湿疹がない、軽度湿疹がある、湿疹が強く出るなどの違いが存在する事は十分ありえます。
最後になりますが、これらの考察は、学会に認められた一般的な見解ではなく、完全なる私見です。
その為、全く見当違いの議論かもしれませんし、存外的を得ている可能性もあります。
ただ、上記ように考えると、赤ちゃんに湿疹が多い理由や食物アレルギーを発症する最多の年齢が0-1歳である理由になりえます。
今回は論文化されている事実に関して私見を交えながら考察いたしました。
今後新たな情報や、学会による公式な見解が出された場合は改めてブログやツイッターでお伝えできれば幸いです。
では、また次の記事にてお会いしましょう。
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