先日花粉症の緊急避難的な治療方法の解説を行いましたが、本日は咳嗽に関する記事です。
特に今回は、
お薬による効果を感じにくく、鼻水と共に長引く咳:後鼻漏症候群
について解説したいと思います。
出典:小児の咳嗽診療ガイドライン 2020より
ここ数年は新型コロナ感染症の事もあり、以前より咳嗽対する社会の風当たりが強く、早めに症状を治してあげたいと思われる親御さんも少なくありません。
ですが、小児の咳嗽は成人とは大きく異なり、各発育期により原因疾患が異なる場合があります。
例えば、RSウイルスによる細気管支炎は新生児期〜乳児期にかけて発症する喘鳴を認める疾患であり、学童・思春期にはRSウイルスによる感染症が誘因で喘息発作を認める事はあっても、細気管支炎は発症しません。
一方、心因性咳嗽(心理的な影響で無意識的に咳き込む)は学童・思春期で時折見かけますが、一般的に自我の細かな表出ができない新生児・乳児期には認めません。
また、小児では幼い程、自分で症状を事細かに説明する事ができない為、ご両親からの話や咳の性状、症状の出るタイミング、随伴症状、悪化因子など詳細に病状を把握しないと咳嗽の原因にたどり着けない事がしばしばあります。
前置きが長くなってしまいましたが、以下が長引く咳嗽の原因として多いけれでも以外に知られていない後鼻漏症候群の解説になります。
・後鼻漏症候群
冬から保育園入園後の夏の入り頃まで、鼻水を垂らしながら咳が止まりませんという主訴の親御さんが乳幼児を連れて、小児科外来にいらっしゃいます。
去痰剤や鎮咳薬、喘息の既往や喘鳴はないけども気管支拡張薬、果ては抗ヒスタミン薬をモリモリに盛っているのにも関わらず、鼻水と咳が良くならない場合、私は後鼻漏症候群の可能性を検討します。
欧米における慢性咳嗽(8週間以上続く咳)の原因のとして、咳喘息、後鼻漏症候群(上気道咳嗽症候群)、胃食道逆流症が3大原因と言われており、実は日本の小児でも遷延性咳嗽(3-4週間続く咳)の原因として呼吸器感染症、喘息と後鼻漏症候群が挙げられています。
その病態の大元は副鼻腔炎といって、鼻の奥の方(副鼻腔)で細菌やウイルス・アレルギーなどが原因で炎症を起こし、その鼻水が溢れて気管(のど)に落ち込んだ痰が原因で咳が誘発されるというものです。
その為、咳の性状は湿性(ゴホゴホ型)で、日中だけでなく、鼻水が気管(のど)に落ち込み易くなる為、夜間横になると悪化しやすいという特徴があります。
想像しただけで、咳き込んできそうです。
ちなみに後鼻漏症候群の治療に関するガイドラインの見解ですが、実は後鼻漏症候群による咳嗽に一律に推奨できる薬剤はないとされています。
そしてヒスタミン受容体拮抗薬、抗コリン薬、鼻うがい、鼻汁吸引、点鼻ステロイド薬、抗菌薬を診断的治療に用いる事を提案すると記載されており、読者としては実際の対応に苦慮してしまいます。
その為、今回の記事では私が実際に外来で実践している考え方を踏まえて解説したいと思います。
1.鼻水の性状
私は後鼻漏症候群を疑った際に、鼻水に色について外来で質問するようにしています。
主な色合いとしては、黄色〜緑色、白色、透明です。
この内黄色〜緑色の場合は、細菌感染症を強く疑います。
色だけでなく、鼻周りや口臭が気になるといった状態だと尚、細菌感染症を疑います。
この時には、副鼻腔で細菌が悪さをしている(一般的に蓄膿症)状態が想定されるので、抗生剤による治療を積極的に行います。
逆に色はあまりつかないけれども、白色でどろっとしている場合は、例えばRSウイルス等によって大量に鼻汁が産生されている状況を疑います。
また、サラサラとした透明の鼻汁の場合は、アレルギーによるものを想定します。
2.年齢
先ほどの鼻水の性状に加えて、年齢によって想定する疾患を変える事が可能です。
主に新生児・乳児、学童期(時に幼児を含む)以降で場合分けします。
まず、アレルギー性鼻炎は若年者では発症する事は稀で、学童期以降に患者さんが増加します。
最近は低年齢化しているので、アレルギー素因がある幼稚園に通う子でもアレルギー性皮膚炎を発症している場合もありますが、0-1歳児では考えにくいです。
また、RSウイルスやライノウイルスといった一般的な風邪ウイルスは、保育園や幼稚園でお互いに感染し、流行する事があります。
その為、流行時期には外来でRSウイルスやライノウイルス検査が陽性になる小児が増える為、小児科外来を行なっているだけで、後鼻漏症候群の原因として可能性が高いかどうかが予想できます。
ウイルスによる副鼻腔炎(からの後鼻漏症候群)には、抗生剤も抗ヒスタミン薬も効果が期待できません。その場合、定期的な鼻汁吸引が功を奏する場合があります。
我が家の話になりますが、子供たちが0-2歳までは電動の吸引機を実際に使用していました。
特に保育園入りたての頃はしょっちゅう鼻水で咳き込んでおり、あんまりひどいと咳き込み嘔吐で痰を吐き出すまで眠れない日もあったくらいです。
そんな我が子が白色の鼻水で寝苦しそうな日は積極的に鼻汁吸引を行い、子ども達の安眠を確保していました。
また、一般期に鼻炎や副鼻腔炎があると鼻と耳は繋がっている為に中耳炎になりやすいのですが、我が家ではこれまでに一人も中耳炎を起こした事がありません(小児科なのでマイ耳鏡で診察)。
最後にガイドライン+(多めの)私見のまとめです。
長引く湿性咳嗽の場合
黄色〜緑色:細菌性副鼻腔炎(蓄膿症)の可能性あり➡️抗生剤治療
白色・粘稠、低年齢:ウイルス性副鼻腔炎・鼻炎の可能性あり➡️(定期的な)鼻汁吸引
透明・サラサラ、やや高年齢(学童くらい):アレルギー性鼻炎➡️抗アレルギー薬
この記事の内容は絶対的な正解と言える程のものではありませんが、鼻汁が影響する後鼻漏症候群(鼻炎や副鼻腔炎)による咳嗽は様々な原因で起こりうるので、原因と治療が合致しないと全く改善しない事も少なくありません。
もし、お子さんやご自身がこのうちのどれかに当てはまるようならば、原因に沿った治療を検討しても良いかもしれません。
以上参考になれば幸いです。
また次の記事にてお会いしましょう。
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